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310 被災現場の人と人(その4)

中越市民防災安全士会 会員 吉原 昌隆(第6話)

 

余震が続く翌日、川口町役場駐車場の片隅で「白米おにぎり」が配られ始めた。
前夜から初めて口にする食べ物、炊き上がる匂いに誘われて行列に並んだ。
地域消防団や、食料品店提供のペットボトルを手にする町民に、
おにぎりだけでも提供したいと町役場職員が動き出していた。

コンクリートブロックで「かまど」を作る。
壊れた建物の廃材を持ち寄る。
山に向かった者は生木も収集してきた。
火種にと枯れ枝や本が集められたが、持ち寄った雑誌の幾つかが、
息子の大切な収蔵品であると後で分かったといった難儀な話もあった。

役場職員で西保育園園長 田中京子は、
倉庫から持ち出された羽釜に、農協提供の米と水の量を量った。
生木の燃え方を工夫し、炊き上げの頃合いを注視したが、
最初の炊飯だけは失敗してしまった、と振り返る。

東保育園園長 星野由美子を中心に
「明日の朝の集合時刻は」「準備すべき物は」と集まり、
明け方暗い頃から炊飯を繰り返した。

寿司店鮨政から提供された高価な食材も使い、
炊きあがったばかりの熱い白米を、手を赤くしながら握って行く。
握られた「おにぎり」をあちこちで食べる光景は、
駐車場の緊張と不安の空気に、一時の安堵感をもたらしてくれたと思い出す。
ただ、そのおにぎりを握った保母達が自ら食べる姿を私は見なかった。

中越市民防災安全士会 会員 吉原 昌隆(第6話)