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089 被災者に寄り添う新潟発の災害食

堀井宏悦(テレビ新潟放送網 元監査役 (第3話):

自宅がある東京の江戸川区で行われる防災訓練では、終わりの時刻が近づくと、
賞味期限が間近に迫った備蓄食が、お土産として配られる。
毎回、かなりの量のクラッカーや乾パンを頂戴して帰るのだが、美味しく食べた記憶がない。
「災害時には、厳しい食生活に耐えることになる」「もったいなので残してはだめだ」。
そう思っていつも何とか食べきっている。

新潟に赴任した今から6年前、当地には美味しい非常食が数多くあることに驚いた。
しかも、被災後に命をつなぐ食べもののことを、新潟では多くの人が非常食ではなく「災害食」と言う。
そして、その「災害食」のほとんどが、大災害を引き起こした新潟県中越地震の教訓を
踏まえた創意工夫の中から生まれたことを、赴任して間もなく知った。

長岡市に本社を構える「エコ・ライス新潟」が災害食の製造を始めたのは、
腎機能障害を抱える高齢男性の家族が、中越地震の避難所で漏らした、
こんな呟きがきっかけだったそうだ。
「おじいちゃんが食べられるものが、ここにはないんです」

支援物資としてカップラーメンが届いても「塩分が多すぎて食べられない」。
中越地震で浮き彫りになった過酷な現実と向き合い、
同社では低タンパク米でレトルトパック入りのご飯を開発した。
「超高齢社会にやさしい」のキャッチフレーズを掲げたこの災害食は、
腎臓病でも安心して食べられる災害対応備蓄品として全国に販路を広げている。

多くの優れた災害食が新潟では日々製造されている。
飲料水の確保もままならない状況が続いている能登半島地震の被災地の高齢化率は5割を超えるという。
助かった方々の命を守り支えるために、新潟発の災害食が被災者の元に一刻も早く届くことを祈りたい。

 

【執筆】
 読売新聞所沢支局長 堀井宏悦(テレビ新潟放送網 元監査役)(第3話)